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僕の喪失物語 ―“はり半”の記憶より―

  • [コラム]

ある日、西宮を自転車で走っていました。
このあたりを訪れたのは約15年ぶりです。
僕は、大学卒業とともに関東に移り住み、
2年前、再び神戸に戻ってきています。

甲山に向かう急な坂道を、
ヒィヒィ言って、
ハンドルをヨロヨロさせながら
登っていました。
すると、
「マンション建設反対!」と、
民家の壁に横断幕がかかっていました。

 「この手の対立はどこにでもあるものだな」と、
僕はあまり気にすることもなく、
さらに坂を登りました。
少しでも気を抜いたら
倒れてしまいそうな急坂です。

ところが次に、こんな横断幕が
目に飛び込んできたのです。

「はり半の跡地を守れ!」

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▲そのときの現場の様子 http://harihan.web6.jp/

“はり半って・・・!?”
このとき僕の中で記憶が蘇りました。
かつてこの場所に味わい深い
大きな日本建築の屋敷があったこと。
それは「はり半」という料亭でした。

「はり半」を発見したのは、
大学生のときです。
大学生になって
はじめてできた彼女を横に乗せて、
ドライブをしていたとき。

えっ!?
「大学まで彼女できなかったの(笑)」
ですと!!
ぼ、僕らの頃、男女の仲は
今よりもっと奥ゆかしかったのです・・・
モテなかったわけでは・・・(涙)

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▲当時の門構え http://harihan.web6.jp/

えー、話を「はり半」に戻しますよ。

この建物はオーラが違ったのです。
歴史と風格が漂う門構え、
道沿いにどこまでも伸びる土壁・・・、
出入りする人間の格が問われる、
そんな気持ちにさせられるぐらいでした。
料亭だと知って
「すごいなぁ、いつかこんなところで
飯を食えるような人になりたいね」
などと話をしたものです。

偶然出合った「はり半」ですが、
その存在感は大きなものがありました。
その後も、前を通るたびに
憧れや愛着は強くなるばかり。

「あそこで食事できるのはスティタスなのよ」
と、家庭教師をやっていた先の
お母さんに教えてもらったことも。
(阪神間の方々は
「スティタス」が好きですよね)

谷崎潤一郎の「細雪」にも、
「はり半」の名が出てくることも知りました。

 harihan[1]
▲▼美しい敷地内の景色 http://harihan.web6.jp/
harihasi[1]

その後、「はり半」でご飯を食べることはなく、
関東に移住することになりました。
同時に、「はり半」のことを思い出すことも
なくなっていました。

ところが、15年ぶりに神戸に戻り、
不意に記憶が蘇ります。

再会した「はり半」の姿は、
長い年月で黄ばんだ漆喰の土壁ではなく、
マンション建設中の白い鉄板の壁でした。
再会じゃなくて、もう別人・・・

 IMG_3994
▲跡地に建つマンション建設の様子

状況を理解した瞬間、
全身の力が抜け落ちました。
すごい虚脱感。
それは時間とともに悔しさに変わりました。

後に聞いたところによると、
「はり半」の経営が悪化しえ閉店した後、
跡地が売り出されたようです。
ある会社が建物を買い落としたのですが、
その会社も経営が傾き、
再び不動産が売りに出されたところで
ディベロッパーが買い受けた、とも。

不動産が転々とする間に値が上がり、
「マンションでも建てないと
その費用は回収できない」
という感じだったそうです。

損得勘定で帳尻を合わせるには、
仕方なかったのかもしれません。
それでも・・・
やっぱり、僕には
この結果が腑に落ちないのです。

 「はり半」の建物には
無くしちゃいけない価値が
あったと強く感じています。

もう一回作ろうとして
作れるものではありません。
お金に代えられないものです。
僕以外にも、その場に思い出を持つ人は
たくさんいたでしょう。

こんな残念な結果は
もう見たくないものです。
こういうことがとてつもなく悲しい。
自分の一部を持っていかれたような
気持すらしました。
大げさではなく。

 この出来事は、
この『なりわい承継メディア』
立ち上げるきっかけになりました。

良いと思うものを残したいのです。

それが建物でも技でも、
会社でもお店でも・・・
アイディアとみんなの力を集めてどうにかしないと、
いろんなものが消えてしまうと危惧しています。

(おわり)

※写真の一部は「 はり半の自然を残そう」
http://harihan.web6.jp/」様より
【募集】
読者のみなさんの
「残したかったけど、残せなかった物語」があれば、
是非、編集部にお聞かせください。

BB編集部だより

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